父の言葉
毎年、父の日が来ると、亡き父のことを思い出す。
父の日なんだから、あたりまえ、なのだけど、
あたしの父は、十三年前の、まさに父の日に逝ったのだ。
いや、正確に言えば父の日の前日だけど、あたしにとっては父の日、なのだ。
韻を踏んでるような、清々しいほどの幕だった気がする。
今でもはっきりと憶えてる父の言葉。
やりたいことをやりなさい。
好きなように生きなさい。
悔いのないように。
俺はコミュニケーションが苦手だった。
だから好きな人間に対しても、つい心を閉ざしてしまう。
だけど、おまえは絶対に諦めないでほしい。
俺ができなかったことを、諦めないでやってほしい。
前段は、父が死ぬ前日、あたしにくれた電話で、父が繰り返し言ってた言葉。
後段は、父の初七日を終えた故郷からの帰りの新幹線のなかで聴いた、父の言葉。
初七日の日は土砂降りで、走る新幹線の窓に叩き付けるように雨が降ってた。
どう気持ちを切り替えようとしても父のことが頭と心を駆け巡り、
雨が吹き込んでるかのように、涙があとからあとから流れてた。
泣きつかれて眠りに入ってしまうかもしれない、と思いかけた頃、
雨降る漆黒の景色から、穏やかな父の声が聞こえたのだ。
あたしの反芻だったのかもしれないけれど、確かに、聴こえた気がしたのだ。
あたしの兄弟は一姫二太郎で、唯一の女の子供だったこともあって、
父はあたしを溺愛してた。
おまえは嫁に行かなくてもいい。
と笑顔でよく言っては、母に怒られてた。
それを叶えようと思っていまだに独身なわけではないけれど(笑。
*
父が逝ったあと、あたしはよく父の存在を感じる。
友達と話してる時、ふと窓辺に父が座って微笑んでたり、
仕事で煮詰まってる時に、どうか助けて、と祈ると、
父がすぐに答えをくれるのか、すいっと進むようになったり。
みな、あたしの無意識が創り上げた幻かもしれないけれど、
それであたしが心穏やかになれるのだから、どちらでもよくて。
今日、目覚めたら、白い花を買おう、父のために。
あたしの意識が、魂の底から湧きあがる深遠な淵に立てるよう、父に誓おう。