好きの理由

Bill Evans / Waltz for Debby

 

20代の終わりの頃、阿佐ヶ谷の小さなジャズバーでピアノトリオの演奏を聴いた。

友達とか知り合いとかじゃなく、誰も知らない初めて会う人と初めて聴く人だった。

「ピアノ好きなの?」

さっきまでピアノを弾いてた男の人が、

ピアノのすぐ前で聴いてたあたしに話し掛けてきて。

はい、って答えたら、

「誰のピアノが好きなの?」

Bill Evans とか、あと…」

Bill Evans のどのあたりが好きなの?」

と言われたあたりで、…尋問みたいで嫌になってトイレに立って、そのまま帰った。

音楽を楽しんでるだけ。

あと、好きに理由はないし、もしあったとしても説明することじゃない。

それは自問自答の議題なだけだ。

そのピアニスト、きっととても辛いことがあった日に違いない。

だって、その日の演奏はとても素晴らしくて、素敵だったから。

たぶん Bill Evans だって、恋しい人に会えない日はちょっと冷たい人になるはず。