朝の月

仕事を一区切りつけて、事務所を出て。
空を仰いだら、視線の真っ直ぐまえに、まぶたを閉じたような月が浮かんでた。
ついさっきの空のこと。


小さいナイフで、空を、しゅっ、と切って。
朝靄の向こうにあふれてるまばゆい太陽の陽射しが漏れてるみたいに、
その傷、月は輝いてた。
まぶたを閉じたままで、きらきら光ってるみたいだった。


ぶっ通しで作業してたけど、七割くらい、その景色で疲れが吹っ飛んでしまって。
今さっき、部屋に戻ってきたけど、あの空の情景が浮かんで、眠れない。


昼まえには事務所に戻って続きをやんなきゃいけないので、
ちょっと眠らないと頭がまわらないのだけれど、こーゆう時はうまく眠れない。


 空は、ほんとは漆黒の闇なんだよ。


ってセリフを聞いたのは、たしか「シェリタリング・スカイ」だった、かな。


みな無から生まれて無に戻る。
そんなことを想ったっけ、って思い出した、今。


だとしても、さっきあたしが見た、光あふれ輝くまぶたの月は、あきらかに生だし、
今まさに明けつつある燃える朝焼けも、疑いなく生だ、とあたしは思ってて。


無と無の間の束の間の生だとしても、
そこにはあふれるほどの喜びと美しさが詰まってるから。


困った、なにを言いたかったのだろう、あたし。


つまり、生きてることは、素晴らしい。
そんなこと、たぶん、あたし想ったのだと思う。