満月

今年最後の満月が、空に居た。
どこを捜してもみつからない希少な、誰も見たことのない、鏡のような月だった。
椿の花を絞った油で磨き抜かれた、古(いにしえ)の鏡のごとくな。


由り選られた、髪のように細い絹糸で織った雲が、その古の鏡を撫でていた。
ゆっくりと、風のように。


月を、穴のようだと思ったこともあった。
天空に空く穴。
その向こうから光が溢れている、と、そう思ったこともあった。


けど、最近、月を仰いでそう思ったことは殆どなくなった。
この頃は、いつも、鏡のようだ、と思う。


今宵の満月は、光り輝いてた。
凹凸さえも、輝くための仕業のように思えた。


なにを諭すでもなく、なにを戒めるでもなく、
ただただ、光を降り注いでくれていた、ように思えた。