祖国


B.Smetana / The Moldau of Má Vlast
スメタナ/『わが祖国』より「モルダウ」)





3月11日午後2時46分。
道を往く人の幾人かが道の端に寄り、まぶたを閉じて顔を少し空に向けてた。
東京の街そこかしこでそんな風景が毎年見られた。


今年の今日のその時間も、ビルの前で、
あたしは多くの人達と同じように、まぶたを閉じて空を仰いだ。
モルダウ」が頭んなかでずっと流れてた。





事務所に戻るとき、ついつい寄ってしまう極旨の魚屋さんに寄った。
東北から直で魚や貝を仕入れてるその店では、
この魚とこの惣菜の売上は直で東北に送ります、と書かれた手作りのハコが置いてあった。
あたしはそれらの商品を買い、おつりもぜんぶその箱に入れた。


東北で被災された方々の問題は、
今やお金でなく、元居た大きな家とかでもなく、
ともに往きかい、会話し、一緒に生き暮らしてきた近所、街、包み込む空気の欠落だそう。
ぽっかりとあいた心の穴は、すぐに埋められるものでもない。
誰かがそれをできるわけでもない。
時間と想いと、具体的な支援、それらぜんぶを継続的に、
ちょっとずつでもいいから続けることで、
いつか必ずぽっかりと空いた心の穴が、いつか無くなるんじゃないかと信じてる。