月食




Chopin / Piano Concerto No. 1 in E minor, Op. 11
by Martha Argerich, piano Wiener KammerOrchester Dir. Erwin Ortner Vienna
May 16, 2010





10月8日、見事な月食を、都会のど真ん中で堪能した。
赤い月。
宇宙が仕掛けるグラデーションの妙技。
都心では時折、厚い雲に隠され、心の抑揚を落ち着かせられて。
黄金色の月に戻るまで、
ドアの隙間から覗いてるような、密やかな悪戯をしてるような気がしてた。
歩道の隅で見上げる傍ら、家路を急ぐ人たちがたくさん通り過ぎ、
時々、あれ、なに見てるの?って感じで月を見上げ、歓声を上げる若者もいたり。


優雅なバレリーナが人知れずレッスンをする風景を垣間見たような気がした。
美しかった。





今年の夏は、とんでもなく忙しかった。
通常ならばひとつくればすごい仕事が、幾つも重なってオーダーされた。
有難いことだけれど、全うできるかどうか困惑するほど。
できる限り外注スタッフを使わずに過ごしてきたけれど、
今夏だけは、力を借りずにはいられず、懐かしい仲間に多く声を掛けた。


先週ほとんどの仕事を提出し終え、ようやく通常の忙しさに戻った。
今は、相変わらず忙しいけれど、外注を使わずとも進めるほどの忙しさ。





欠けて、満ちる月を仰ぎながら想った。


人は、宇宙の塵よりもずっと小さい存在だって。
だけど、人には、想いが詰まってて、記憶にあふれてて。


あたしは無宗教だけど、
神様がいるならば、地球上に生きる人類の想いの濃さを、強く感じてる気がする。


宇宙人はいるか?って、あたしたち地球に生きる人も、立派な宇宙人。
宇宙に生きる、人、だ。


これから先、宇宙がもっと解明されて、生物がどの星に、どんなふうに生存して、
どんな経緯を辿っているのか、どんどんわかってゆくと思う。
わかってゆく過程で、地球が、どんな道を歩んでゆくのか、それもわからないけど。


大事なのは、今生きてることと、
生きてる自分が想い巡らすことのできる記憶があるということ。


人類だけじゃなく、魚も獣も、動物も、植物も、山も、川も、海も、
そして宇宙さえも、生きている限り、寿命がある。


だから、今、生きていることがとても素晴らしいのだ。


ショパンの数少ない協奏曲(コンチェルト)のなかで、
大好きな一番。
生きることの深さを音で現すとしたら、この音だと、今の段階で、あたしは強く想う。
月食によせて。