記憶

ひさしぶりの、のんびりした夜更け。
ずっと心から離れない、妄想か、夢か、未来図か、わからない、ある情景をひとつ。





うりざね顔の、見目麗しい女性が、森の小道に一人立ってて。
走り去る車に向かって、ゆっくりと手を振ってる。


車には、愛しい男、ではなく、
小さな女の子や、おじさんや、仲間や、関連するたくさんの人が乗ってる。


手を振って見送った後、その美しい女性は、振った手を唇に当てて、瞳を潤ませ、
ゆっくりと手を胸元に置き、送った人達を思い返すように、目を閉じた。





この情景が、頭を、心を、あたしの全部が常に思い返してて、堪らない。


あたしの記憶に残るのは、森の匂い。
土煙。
美しい女性が降った手の香しい匂い。


素晴らしい餞別のような。
そんな気がしてならない、不思議な、記憶。