二十二歳

ふと想い出した。
22歳の春。
春雨がしとやかに降ってた日の午後と、そのあとのこと。


美大の先輩、といってもあたしは二浪してるので同年の女友達と、
「二十二歳の別れ」を、あたしの部屋で、授業をさぼって歌ってたこと。


彼女が共通の男友達にフラレタことが、歌を歌った理由だった。
授業に出る支度をしてた朝、突然、彼女が一升瓶を持ってやって来て、


 ねぇ、今日一日、あたしに時間くれない?


とか、確か言ったのだ。
泣きはらした目で、そんなこと言われて、


 いいよ。


と受けて。
その朝から酔い潰れて眠る夕方まで、たぶん、ずうっと呑んで歌ってた。


彼女をフッタその人は、あたしたちが呑んで歌ったその日の二日後、
あたしをランチに誘ってくれて、想いをくれて、そして、あたしはその人をフッタ。
友人である彼女がフラレタから、ではないけれど。


彼女は、その一連のことをどこかから聞いて、あたしにこう言った。


 あんただったら許せるよ。
 あたしが男だったら、あたしもあんたに惚れたよ、きっと。


それから、ものすごい年月が流れ、みんな、その頃、想像もできない年齢になった。
不思議なことに、その彼女、その人、あたし、みな友達で居る。


人の心は、厄介だ。
特に、自分の心は、とてつもなく厄介。


複雑、なんて簡単な言葉じゃ説明できないほど、
絡み、突発的に変化し、淀み、彩り鮮やかになり、沈滞、混ざり、光り、戻り、眠る。


なぜこんな昔のことを突然想い出したのか、わからない。
心ってのは、いったいどうなってるんだか。
ずうっと忘れてたのに。


心の中には、あたしが忘れてる想い出が、もっといっぱい詰まってんだろな。
もちょっと呑んで眠ろ。