雲海




一週間ほどまえの早朝。
標高2,000mの頂から、一面の雲海を観た。


雲の海、とは、見事に言い得てる。
名付けた人に拍手を送りたくなった。


古い携帯カメラで撮ったボケボケ写真なので
小さめの画像で。


正面が南アルプス、その左には北アルプスが連なってた。
そして、写真には写せなかったけど、
そのまた左、少し離れた遠景に、富士山が頂だけを雲海から出してた。


大過ぎて距離感がつかめなかった。


雲が湧き出て、なにもない空間に生まれ続けてた。


湿った朝だったから、科学的には水蒸気が多く発生して、
低い気温のお陰で生まれた雲。
なのだけど。


初めて観た雲海は、まるで真っ白なキャンバスのように立ちはだかってて、
拒絶でもなく、命令するでもなく、優しく包むでもなく、
とても自然に自問自答を促してくれた、気がした。


無の境地に、たぶん浸ったまま二時間ほどが過ぎてて。
寒さに気付いて山を下りつつ、
雲海を眺めたまま、なにも思考せず、なにも想い巡らさず、
心んなかを自分でリセットできたような満足感に浸ってた。


その日の夜、雲は風に流されて、満天の星空が眺められた。


東京で暮らしていると、
月の明るい日以外は、つい漆黒の夜空、などと記してしまうけれど、
あの日の夜、
夜は星が見える時間なのだ、と、心の底から思い出せた。


いつまでも瞬きながら輝き続ける星々を観ながら、
雲海と同じく、形容すべき言葉が見つからないまま、
ただただ眺め入り、時を過ごした。


素晴らしすぎる、いい日だった。