寡黙

半紙の上に立ち、墨を含ませた筆を抱えながら、半紙いっぱいに墨の川をなん本も描く。
心に暗雲が立ちこめるような、墨の川が幾筋もできあがる。


そのなかに、ちいさな真珠が、ぽつんと落ちてるのをみつけて、
歩いている時は、俯瞰の風景を見るのがムツカシイんだった、と気付く。


さっき、帰りに仰いだ空は、そんな風景だった。


ほんのちょっとだけ欠けた、ほぼ満月な月は、深い輝きを秘めた真珠のようで、
寡黙、という言葉が浮かんだ。


全体を見晴るかせる時もあれば、
立ち位置や方角すらもわからないのに、ひたすらに歩くことしかできない時もある。


そんな時は、過信に近い信頼を自分に寄せつつ、黙々と、ゆくのだ。


おどろおどろしい風景のなかに、真珠をみつける瞬間が訪れることを、あたしは知ってる。
これも過信かもしれないけれど。