波打ち際




沈みかける太陽に向かってシャッターを切った海の写真。
写真を撮る人ならば、きっと失敗、
というか、太陽に向けてシャッターは切らない、のだけれど。


この時の海は、あたしにとって、こんな感じ。
幻のようで、目を閉じたら消えそうで、海が、とても遠く思えたのだ。


ぼーっと海を見つめていたら、ちょうどこの写真の左側の、草の生えていたあたりに、
近所に住んでるであろうとても普段着の家族四人連れが佇んでた。


お父さんとお母さんと、娘さん二人、と、美しい面立ちのゴールデンレトリバー
彼らは、互いに話しを交わしながら、目線はみな海を指してた。
漂う雰囲気は穏やかで、彼らを見てると、心なごんだ。


波って、繰り返される。
そう思ってた。


だけど、このとき、ふと想ったのだ。
幾重もの白波が、遠く海の果てから、この波打ち際まで届いてるのだ、と。
同じ波が繰り返されてるのでなく、幾重にも重なるように見えてる波は、みな違うのだと。


永遠に、ひとつとして同じでない波が、打ち寄せる。
そう想えたら、苦しくなったけど、
なぜかそのとき抱いてた心の靄[もや]が、ふっ、っと晴れたのを覚えてる。


たぶん、そのときに、嬉しくてシャッターを切ったのだ、と思う。