愛宕神社



官省が建ち並ぶ虎ノ門駅周辺から、ちょっと離れた場所にある、愛宕[あたご]神社。
大好きな場所。


出世の大階段でも知られてる神社だけど、
この写真は、その右脇にある、なだらかな女坂。
思い切り元気なときじゃないと、大階段は登れない。
危険なのである。


愛宕神社は、江戸時代、慶長8年(1603年)に、
徳川家康によって“江戸の防火の神様”として祀られた社。
由来は調べて初めて知ったことで、
大好きな理由は、実はよくわからない。


とにかく居心地がいいのだ。
場所との相性、とでも言ったらいいのか。
虎ノ門での打合せがあろうものならば、必ず立ち寄ってしまう。


本殿に挨拶したあと、弁天さまに参って鏡を覗き、おみくじをひく。
おもむろに、池の鯉にえさをやり、そのあとで、池の畔でみくじを解く。
そして、しばし、境内の空気にまどろむ。


神谷町という駅が一番近いのだけれど、
愛宕神社をあとに、あたしは虎ノ門駅に向かう。
駅との間に、もうひとつ寄らねばならぬ場所があるからだ。


虎ノ門砂場。
正確には、大坂屋砂場。
蕎麦屋である。


都内では、あたしの好み三本の指に入る旨蕎麦屋で、老舗の名店。
客のあしらいから、店の空気感、風情ある佇まい、昔から変わらぬお運びさんの顔々、
そして、沁みわたる蕎麦の旨さ。
〆の蕎麦湯を味わいながら、愛宕神社で感じた心地よい風を想い返したり。


昔ながらの一軒家が並んでた通りも、今はもうマンションや商業ビルに変わり、
愛宕神社のすぐ隣りにも、粋の欠片も見えぬビルが迫ってる。
幾つもの空き地で、今も日々なにかが建設されてる。


そんな変貌の地に、姿だけでなく、重ねた歴史や空気感、磨き抜かれた技や味を、
見事に守り育てるのは、きっと大変な尽力とご苦労があると思う。
だけど、愛宕神社虎ノ門砂場も、いつも自然体で迎えてくれる。


訪れるあたしたちにできるのは、
その場所を愛し続けること、慈しみ続けることなんじゃないか、と、思ったりした。