蝉時雨

今朝、あたしは蝉時雨で起きた。
ここ数日の、ちょっと涼しげな風が嬉しくて、窓を網戸にして、そのまま眠ってたのだ。


借景にしてる大きな公園は、三十歩ほどで着く。
その公園の大きな樹々を宿にする蝉たちが、あたしを起こしてくれた。


すこし暑いけれど、清々しい朝だった。


蝉は、あまり暑いと、鳴かない、ということを知った。
そして、大きな突然の音にびっくりすることも。


体温に届きそうな気温の昼、蝉の声は、時雨にはならない。
そんな日は、ちょっと気温が下がった夕暮れ時に、声が樹々から降ってくる。


花火を観に行ったときのこと。
地方の小さな花火大会を、高台の物見台のような場所から眺めることに決めて、
花火が打ち上がるのを、蝉時雨を聞きながら待ってた。


どーんっ、と最初の花火があがった直後、二発めまですこし間が空いて。
そのとき、あれほど時雨だった蝉の声が、しーん、としてた。


 蝉が驚いて、黙っちゃったよ。


と、あたしのまえで花火を観てた、小さな女の子がお父さんに言った。
三十分ほどの花火大会が終わった途端、
ほっとしたように、小さな声からフォルテシモに、徐々に大きく、蝉が鳴きはじめた。


夜深くなると、東京でも、ようやく法師蝉が鳴く。


33度が昼間の平均気温、という東京。
アスファルト敷きの東京は、体感では40度ほどじゃないか、と思われる。
けれど、一時期の、体温ほどの気温は、もう無くなった。


とてもゆっくりだけれど、秋が近づいてる、はずだ。
冬を迎える頃には、きっと、この猛暑な夏は、懐かしい想い出になる。
忘れ得ない夏、もうしばらく謳歌してみよう。