黒富士




湖畔の空気が冷たい。
山中湖からの富士、あたしは、黒富士、と名付けた、今日の富士。


天光が、雲をすり抜けて地に届くさまは、まさに、光臨。
雲の向こうに控える富士山が、なにか眠ってるように思える、不思議。





五合目まで走り、見上げた富士。
黒い富士。
そして。





ズームすると、雪の川が見える。
気温は、たしか、十度ちょっとだった。
五合目のパーキングに設置された大きな温度計は、マイナス三十度までメモリがあった。


たまには、こんな富士も、いい。
まだ眠りから覚めぬ尊人を、起こさぬよう、みなで見守ってるような、気がしてた。


母国に富士よりもずっと高い山並みを持ってる中国人やヨーロッパ人が、多く観光してた。
なにか妙な気がしたけれど、感慨を持って見上げてくれてる表情が、
あたしは、理由がわからないけど、好きだな、と思った。


変わらないモノがあるとしたら、なんだろうね。


いや、すべてのモノコトは、変化を繰り返しながら、存在してる。
万物は流転する、のだ。


富士山が黒富士にだってなる。
変化は、恐れるコトじゃない。