TONG POO
オルガンを習うのをやめたのは、
尊敬する師匠が癌で他界されたから。
もうずいぶん昔の話だけれど。
楽譜のまま弾くのではなく、
楽譜に込められた作曲家の心を音で表現することを、彼女は教えてくれた。
無邪気な子どもだったあたしに、
心を感じることが大切だ、と、諭してくれた人だった。
*
東京は一昨々日あたりから十度ほど気温が下がり、
まるで晩秋のような寒さ。
長雨の中、傘にあたる雨音を感じながら歩いてたら、ふいに想い出された。
十年近くあたしにオルガンを教えてくれた彼女のこと。
時間は魔法のよう。
じんわりと人の心を溶かし、熱さを帯びた心の炎だけを残してゆく。
そして、その熱さがなにか、時間をかけて教えてくれる。
これは暗い話ではなく。
友人が逝ってから、人はいつ逝くのかわからないと思ってる。
ものすっごく健康であっても、なんの兆しが見られなくても。
だからこそ、いつ逝っても悔いの無い生き方がしたい、と更に思うようになった。
いつも幸せで居たい、と思うようになった。
面倒なことほど、
嫌なことほど、
煩わしいことほど、
できる限り、秒速で処理するようになった。
*
人は幸せになるために生まれてきた。
これを、決して忘れてはいけない、と思う。
すべての人が忘れてはいけない、と思う。
どうしても人を、人の心を傷つけてしまうことは、ある。
だけど、人を傷つけようとして、傷つけるのは、いけない。
どうしようもない、それは自分も傷を負って、傷つけてしまうとき。
愛は、無限。
時も、時空も、なにもかも超えて、愛は無限に広がってく。