TONG POO




オルガンを習うのをやめたのは、
尊敬する師匠が癌で他界されたから。


もうずいぶん昔の話だけれど。


楽譜のまま弾くのではなく、
楽譜に込められた作曲家の心を音で表現することを、彼女は教えてくれた。


無邪気な子どもだったあたしに、
心を感じることが大切だ、と、諭してくれた人だった。





東京は一昨々日あたりから十度ほど気温が下がり、
まるで晩秋のような寒さ。


長雨の中、傘にあたる雨音を感じながら歩いてたら、ふいに想い出された。
十年近くあたしにオルガンを教えてくれた彼女のこと。


時間は魔法のよう。


じんわりと人の心を溶かし、熱さを帯びた心の炎だけを残してゆく。
そして、その熱さがなにか、時間をかけて教えてくれる。


これは暗い話ではなく。


友人が逝ってから、人はいつ逝くのかわからないと思ってる。
ものすっごく健康であっても、なんの兆しが見られなくても。


だからこそ、いつ逝っても悔いの無い生き方がしたい、と更に思うようになった。


いつも幸せで居たい、と思うようになった。


面倒なことほど、
嫌なことほど、
煩わしいことほど、
できる限り、秒速で処理するようになった。





人は幸せになるために生まれてきた。


これを、決して忘れてはいけない、と思う。
すべての人が忘れてはいけない、と思う。


どうしても人を、人の心を傷つけてしまうことは、ある。
だけど、人を傷つけようとして、傷つけるのは、いけない。
どうしようもない、それは自分も傷を負って、傷つけてしまうとき。


愛は、無限。
時も、時空も、なにもかも超えて、愛は無限に広がってく。