握手

ヘンテコな情景に出会った。


今日の昼下がり。
事務所で仕事をしていると、下から喧嘩してるような声が聞こえて。
三階の事務所の窓から、前の通りを見た。


狭い通りを大きなトラックがまわり損ねてて。
その、曲がろうとした角に、自転車から転げ落ちてる黒い服のおじさんと、
そのおじさんの自転車が当たったと思われる、白い服のおじさんが居て、
そのふたりが喧嘩をしてたのだ。


喧嘩の大部分は、白い服の歩いてたおじさんが、黒い服の自転車に乗ってたおじさんに、
自転車が当たったんだよ!と、怒ってるよう。


車には怒らないんだな、と、動向をうかがってると、
車の運転席から若い男の子が出て来て、


 すみません、僕がいけないんです、お二人が喧嘩することないです。
 お怪我とかしてたら、僕きっちり責任とりますから。


と、毅然として言った。
怪我をしてる様子もないので、これで、ふたりのおじさん共に、
いいよいいよ、ということで和解、となると思ったら。


 そういうことじゃないんだよ。
 こいつの自転車が、俺に当たった、って言ってんだよ、邪魔すんな。


と、白い服のおじさんが言い切った。
なにを言っとるのかよくわからなくなったけど、ひき続き見た。


 おい、車、早く曲がっていけよ、もういいから。


と、黒い服の、自転車に乗ってたおじさんが言って、
おじさん自身も自転車でその場を立ち去ろうとした。


したら、白い服のおじさんが走って追いかけていって、またイチャモンつけてるのだ。
車の後ろに乗ってた若い男の子たちが車から降りて、
おじさんふたりの喧嘩を止めに掛かった。
そんな若い男の子たちにも、白い服のおじさんは、


 俺たちふたりの喧嘩なんだよ、邪魔すんな。


と一喝。
若い子たちは、なかば呆れて車に乗り込み、車が去った。


白い服のおじさんは、まだ黒い服の自転車のおじさんになんだかんだ言ってたけど、
次の瞬間、白い服のおじさんが、いきなり手を差し出して、
なんと、ふたりのおじさんは握手して、お互いに謝って、二手に分かれていったのだ。


こんな長々書いておいてなんだけど、
よかったなー、と思えるすっきり感がないんだなぁ。
一体、あの情景は、なんだったんだろう。
白い服のおじさんは、一体、なにがしたかったんだろうか。