山深い場所に、桜の季節、必ず行く場所がある。
小さな古寺。
四月いっぱい、染井吉野、枝垂桜、八重桜が次々に満開となる、桜寺。


とても小さな寺で、大きく採り上げられたこともないので、
訪れるのは近所の方々とか、とても数少ない人のみ。


樹齢はかなり。
三本とも、桜とは思えぬほどの大樹。


人知れず、山深い古寺で花を咲かせ、
春を迎えて、墨土に舞い降つる。


今春もほんのちょっとだけ訪れた。
枝垂桜が葉をつけはじめ、八重桜が満開だった。


腰の曲がった、近所に住んでるらしい婆ちゃんが、
桜を見上げるまえから笑顔で、山門をくぐって来た。


婆ちゃんが桜を仰ぎ、桜吹雪のなか、あたしも桜を仰いでた。
言葉を交わしていないけど、嬉しい暖かい風が吹いた気がした。


今宵は、少しだけ欠けた月が、鏡のように空にいる。
どうか、お月さま。
北上する桜前線が、日本を桜色に染めてくれますように。