浪人してた頃、日曜のデッサン教室で出会った親友がいる。
彼女は、三児の母で、優しい旦那さんと、家族みんなで仲良く暮らしてる。
ただひとつ、旦那さんが重病に冒されてる、それが、あたしには悲しくてならない。
なぜなら、ものすごい苦難を乗り越えて、彼女は生きてきた人だから。


その彼女とは、三年か四年に一度、会う、ことになってるようだ。
あたしたちは、かなり離れたところに暮らしてるから、そうなる、ということと、
会わずとも、なんだか済んでしまう時期と、会わずにはいられない時期が、
そんな曲線で訪れるから、という、たぶん、ふたつの理由から。


六年ほど前に会ったとき、彼女は、こんな言葉をあたしに教えてくれた。


 人はね、みぃんな、自分で幸せをつかむんだと思う。


与えられるものじゃないんだ、ってことを彼女は説明してくれた。


寂しいなぁ、なんて思う人もいるだろうけれど、
巧くいえないけど、そういうことじゃないんだ。


辛いことでもなんでもなく、事実、人は、ひとりで生まれ、ひとりで死んでゆく。
自分がどうするか、自分がどう考えてるか、自分がどうしたいのか、が、
人生を前に進めてゆくんだ。


むやみに自己主張をすればいい、ってもんじゃなく、
主体的に、想い、考えることが、とても大事だ、ってことなんだ。


そういう意味で、幸せは、自分でつかむもの、なのだ。


言葉で言えない、大切なことが増えてゆく。
夏目漱石の「草枕」を、最近ようやく読めるようになってきたのは、
そんな理由かもしれない、と、ふと想った。