福生




Joe Jackson / Steppin' Out


学生時代、福生BASEでウェイトレスのアルバイトをしてた。
東京都福生市
市全体が日本とは思えない空気で包まれてるエリアだけど、福生BASEは完璧に異国だった。
土地自体もカリフォルニアの法律で規制されてるそう。
カフェの先輩にそう聞いた。


勤務場所は飛行場に隣接したカフェで、
飛行機に乗る整備兵から、胸にバッチを幾つもぶら下げた機長クラスまで、
カフェの客はほんとにさまざまだった。


あたしの勤務時間は22:00〜翌8:00。
学校を終えて建築事務所のバイトを終え、そのあと福生に向かう。
東福生駅で降りて飛行場に一番近いゲートまで、暗い夜道を歩く。


そのときに、Joe Jacksonをよく聴いてた。
なかでもSteppin' Outが一番気に入ってた。


暗闇にぼんやり浮かび上がるBASEの灯り。
16号沿い広がるBASEは、舞い降りた戦艦のように巨大な異世界で。
東福生からゲートまでの道のり、まるで映画のワンシーンを演じてる気分にさせた。


カフェでは兵隊さんによく声をかけられた。
午前2時〜3時の休憩時間に食事を摂るのだけれど、
時折、チーフの計らいでワインとかビールとかを呑ませてもらえてて。
そんな場面を見知った兵隊さんに見つかると、


 Hey girl, don't you drink it?
 (ねぇねぇ、だめじゃん、呑んじゃぁ。)


とか言われた、なんど会っても。
いくら二十歳だと言い張っても、東洋人のスタッフ以外は信じてもらえなかった。
大抵の場合、12,3歳だと言われてたのだ。


福生BASEにはさまざまな人種が働いてる。
お祭り好きなアメリ西部の人
プライドが高いのに妙に細かな気配りをするアメリカ東部生まれの副機長の女性。
北京生まれのチャイニーズの女性は、あたしの誕生日に饅頭を蒸してきてくれた。
メキシコ生まれのオランダ人の青年は飛行機の整備を勉強しながらカフェで皿を洗ってた。
and,more...


たくさん喧嘩をして、言い合って、たくさん仲直りして、優しく接し合って、
スタッフも客も、まるで大所帯の家族みたいにふれあった。


クリスマスイヴには、故郷に帰れない兵士たちがギターとハーモニカを持って来て、
故郷に向かう飛行機を眺めながら、クリスマスソングとビートルズを繰り返し歌ってた。
そんなときも、


 Hey girl! you only cake, okey?
 (オーイ、君はケーキね。)


と言って、呑ませてくれなかったけど。
だけど、故郷や故郷に残した家族、恋人を想って歌う彼らの瞳は、
澄んでとてもきれいだった。


誰もがみな愛を持ってて、愛する人がいて、懐かしい故郷を持ってる。
国の政策と、その国に生きる人、その国出身の人を、混同してはいけない。


当時そう思ったことを改めて今、強くそう想う。