生命




桜前線が北上してる、とラジオで聞いて、はたと思った。
もうすぐ、春なんだ、って。


あの日から二週間めの日。
ひさしぶりに銭湯に行った。
なぜかというと、部屋では落ち着いて風呂に入れなかったから。


とてもひさしぶりに行った銭湯は、事務所から五分ほどの場所にあって。
徹夜続きになると、いつもお世話になってた場所。


以前と変わりない、いらっしゃいませ、の声。
着替え場も、洗い場も、湯も、変わりなく、迎えてくれた。


洗い場の高い天井にこだまする、ざぁ、っという水をかける音、桶の音、
近所のおばちゃん達の笑い声、男湯から壁を隔てて聞こえてくる話し声。。。


湯に浸かってたら、
心と体に知らずに溜め込んでた、疲れという名の垢が解けてくようだった。


震災と原発で家に帰れない多くの方々に、この湯をこのまま届けてあげたいと思った。
怖がってた自分が、可笑しく思えた。


一年にも思えたこの二週間。
まだ問題は山積してる。


だけど、怒りの反動で前を睨むのではなく、
あの日までのリズムとはちょっと変化した、新しいあたしのリズムで、はじめなきゃ。


春を迎える準備を、樹々や花々は、もうはじめてる。


何千年も根を張り、枝を伸ばし、葉を開かせている大樹。
大樹に宿る仏。


あの日から、心の扉は開いたまま。
もう閉じる鍵は、捨ててもいいと思ってる。


ひとつひとつ自分の選択を信じて進むのだから、心の扉は閉じなくても、平気だ。